DNAから人類の拡散を探る その6 |
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2008年12月14日
DNAから人類の拡散を探る~総集編
こんにちは、saahです。
さて6回にわたり「DNAから、人類の拡散を探る」の記事を書きました。DNAという、ちょっと小難しい世界を覗きながらのことなので、今日は最後に総まとめとして要点を整理しておきたいと思います。
いつものように応援よろしくお願いします。
これまでの記事は下記の様にまとめてきました。
①なぜDNAから人類の拡散過程を調べようとしているか(第1回目)
②基礎用語、概念説明(第1回目)
③DNAグループの調査でなぜ人類アフリカ起源説にたどり着くのか(第1回目)
④アフリカを出た人達の経路はどのようにして知ることが出来るか(第2回目)
⑤人類の移動(拡散)の時期はどのようにして知ることが出来るのか(第2回目)
⑥『出アフリカの二つのルート』(第3回目)
⑦『拡散の跡を探る』(第4回目)
⑧『ハプログループからみた人類の分岐』(第4回目)
⑨『アメリカ先住民はどこから来たのか』(第5回目)
~新大陸に渡っていった人達はどのような人達なのか
⑩『アジアを源とするアメリカ先住民のハプログループ』(第5回目)
⑪『新大陸に渡ったのはいつか』(第6回目)
~新大陸への移動のルートと時期は(第6回目)
【要点】
■最近の定説となりつつある人類の「アフリカ単一起源説」ですが、DNAの世界でも同様な説が唱えられています。DNAを調べるとなぜそれが分かるのか。
現代人のDNAを調べると大きく4つのグループに分けられ、そのうちの3つのグループはアフリカに住む人たちのみからなり、残りの一つに、アフリカ、ヨーロッパ、アジア人から成り立っています。したがってどのグループにもアフリカに住む人が属しており、それだけアフリカに住む人々のDNAの変異が多様であることがわかります。変異が多様であるということは、変異した時期がそれだけ古いことを意味します。
したがって、現代人の祖先がアフリカで生まれたと考えると最も辻褄が合い、アフリカ単一起源説に結び着きます。
■では次に、アフリカを出た人達の経路はどのようにして知ることが出来るか
DNAの突然変異は時間とともに蓄積されていきます。そのパターンによってハプログループというグループ分けが出来、かつその変異の多さ=変異の古さと合わせてハプログループの系統樹が出来ました。これによりどのハプログループが先に生じたか、という時間軸がわかります。
後は、世界の各地域の人々のハブログループがわかれば、その地域の人がいつ移住したかもわかるわけです。これらを順に押えると、移動( 拡散)経路と、時期が見えてくるというわけです。
(画像はこちらからお借りしました)
ここまでがDNAの調査によって、具体的にどのようにして人類の拡散の時期とルートが分かるのか?という概要のおさらいです。
以降は、上記のDNA分析で調べた結果、アフリカに起源を発する人類がその後いつ頃どのようなルートで新大陸に渡ってきたのか、についてのまとめです。
■出アフリカの二つのルート
先に説明したハプログループの4大グループ(クラスターと呼ばれています)のうち、アフリカに住む人以外が含まれているグループが、後にアフリカを出て世界に拡散していったということになります。そのグループをさらに細かく分類すると、大きくはMとNのグループがあり、かつこのうちNはヨーロッパ人とアジア人に、Mはアジア人のみを含むグループです。このことから、アフリカを出た人類は大きく2方向に分かれたのだと推察できます。
(上記と同じ)
■新大陸に渡ったのはどちらのグループなのか
ヨーロッパ人とアジア人のハプログループをさらに詳しく調べます。
その結果、ヨーロッパ人のハプログループは大きく、J,H,V,T,K,Uに分かれ、これは全てNというハプログループから生じています。(先のハプログループの系統樹より)
アジアは、インド辺りまではNグループのハプログループとMグループのハプログループの分布が見られます。それ以東のアジアではMグループから生じたハプログループが分布しています。
またアジア全体では、分布が大きく南北に分かれます。
北のグループには、Nグループの系統のA,Y、Mグループの系統のD,G,M8a,C,Z。
南のグループには、NグループのB,R9,F、MグループのM9,M7,Eが含まれます。
この分布の状況から、東アジアへの拡散ルートは大きく2つのルートがあったのではないかと考えられます。
一方新大陸に渡ったグループはこのうち一体どのグループなのか。
アメリカ先住民のハプログループを調べると、A,B,C,D,Xのいずれかだそうです。このうちXを除くと全てアジアにのみ存在するグループであることが分かります。
Xはヨーロッパのコーカソイド集団にも見られますが、詳しく調べるとコーカソイド集団のXのハプログループのものとはD-ループ領域の塩基配列という部分が異なっており、別の集団であることが分かりました。つまりヨーロッパから持ち込まれたハプログループの系列ではないということになります。またシベリア先住民からもこのハプログループが発見されたことにより、Xもやはりアジアに特有のものであろうと考えられます。
以上のことから、新大陸に渡った人々はアジア人(=モンゴロイド)であろうという事がいえます。
■新大陸へのルートは?
アジアにおけるアメリカ先住民と同じハプログループの分布を調べてみます。
その結果、A,C,Dは主としてアルタイ山脈・トゥヴァ・バイカル湖周辺といったモンゴルの北方に隣接する地域の集団に集中的に見られます。またXもシベリア先住民やアルタイ住民から見られます。
一方ハプログループBは東南アジアから中国南部に分布の中心があります。
これらから、2つのグループがそれぞれ別々のルートで渡ったと考えられます。
つまり、ひとつはベーリング陸橋を渡ったルート、もう一つは東アジアの大陸沿岸を北上し、海岸沿いに渡るルートです。そこから前者は新大陸に渡った後、無氷回廊ルート(内陸ルート)で南下、後者は新大陸の太平洋沿岸(海岸ルート)を南下したとも考えられます。
■新大陸に渡ったのはいつ頃か
これもアメリカ先住民のハプログループの研究から、そのハプログループの分岐年代はおおよそ2~4万年前であり、シベリアに見られるハプログループもほぼ同様の数値が得られている。このことからアメリカ先住民の各ハプログループは2~4万年前の頃に持ち込まれた(=渡った)のではないかと考えられます。
以上、DNA分析からハプログループという分類によって、人類の共通の祖先、アフリカからどのようなルートで拡散し、そして新大陸に渡った人々がどのような人々でどんなルートをいつ頃渡って来たのかを押さえてみました。
その結果は、少なくとも旧大陸(のうちのヨーロッパ)の古代文明を作った人々とは異なる系統の人々であろうということが言えそうす。
ただ今回参考にさせていただいている「日本人になった祖先たち」(篠田謙一著)にも書かれている通り、DNAによるこの調査が決して万能であるとはいえません。まだまだ未解明な部分も残っていることを前提に上記の件も考えたいと思います。
また「日本人になった祖先たち」では、その題名の通り主眼は“日本人の祖先”についての研究結果ですが、その中から人類の拡散過程の部分をいろいろと拝借させていただきました。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
投稿者 saah : 2008年12月14日 TweetList
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