仏教に未知収束の志を見る~第4回 儒教が成した未知収束とは? |
メイン
2014年09月21日
宗教が国家を上回った国:イスラムとは?【5】イスラムはなぜ商業を重視するのか?
こんばんは。涼しくなってきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
今日は、 イスラムの商業について取り上げます。バザールはあまりにも有名ですね。
イスラムの世界ではこのように商業が重視されますが、それは何故なのでしょうか?
イスラム教の始祖 :ムハンマドが商人出身だったからなのでしょうか?
それだけではない、深い理由があるようです。
その理由を解明して行きましょう。
私たちが抱く『商業への印象』が180度変わる事、請け合いです。 それでは行ってみましょう。
『商業』という職業から、思い浮かぶのはどんなイメージでしょう?
江戸時代の士農工商で習ったように、直接生産に携わらず、物品を右から左へと横流しすることで利潤を得る、どちらかというと下賎な職業とされている印象が拭えませんね。
実現論:商業→市場の成立過程に、その成立構造が書かれています。
この消費階級の主役は、宮廷サロン=規範破りの自由な性市場で性的商品価値=性権力を獲得した、支配階級の女たちである。
国家に集積された巨大な富を消費する消費階級が存在する以上、その消費の場=性市場に、私権の獲得を狙う遊牧集団etc.が交易集団に姿を変えて、金・銀・宝石や毛皮・絹織物etc.を持って群がってくるのは、必然である。
つまり、私権の強制圧力は、必然的に支配階級⇒堕落した消費階級を生み出し、自ら働く事なく遊興に明け暮れる消費階級は、その性市場を母胎にして、必然的に(私権の強制圧力に追い立てられて働くしかない)生産階級に商品市場を作らせる。
ここで最も重要なことは、『市場の真の主は、市場の外にいる』という点である。市場の真の支配者は、国家や性市場の中に、支配階級=消費階級として存在しており、彼らは直接に市場の建設を担ったりはしない。
市場の創出と拡大を主体的に担うのは、私権の強制圧力に追い立てられて働くしかない生産階級自身なのである!
このように、西欧発の商業・市場とは、堕落した消費階級たる支配者層が、生産階級を奴隷のように働かせ搾取するための装置であり、それは今現在にも繋がっています。
しかし、イスラム社会の商業・市場は、この西欧市場の成立過程とは一線を画しています。
そのポイントは2点。『幻想価値の否定』と『私利私欲の抑制』です。
『幻想価値の否定』
西欧社会と根本的に異なるのが性的商品価値の暴走を抑制している点です。
『性の商品化』から女性を守る衣、ヒジャーブ。 に記載されているとおり、イスラム社会においては、集団内の女性を守ることが第一義。
性的商品価値を抑制するというより、彼女らを外敵から守るためにどういう規範が必要か、と知恵を巡らせていたと言ったほうが正しいでしょう。
さらに、 イスラム金融のメカニズム~金が金を生むことを禁じたイスラム にあるように、利子や信用創造、インサイダーや先物取り引きといった行為を禁じています。
彼らが否定しているのは実態経済から乖離した価値。
集団を解体に導く愚行とされたこれらの行為は、イスラム教成立時点の不変命題としてコーランに記されているのです。
一方で、実態と対比できる価値はトコトン肯定します。よって、交易の場では、金銀財宝は当然扱い、したたかな取引を行っていたと考えられます。ただし、これらの取引が徹頭徹尾、集団のために行われていた点が次のポイントです。
『私利私欲を抑制』
交易を通じて得た富は、莫大なものであったと想定されますが、イスラムではこれを私物化することを禁じています。
商業利益はすべからく公共へ還元するのです。六信五行に出てくる『喜捨』ですね。
イスラムでは、あくまでも集団が第一。私腹を肥やす行為はコーランで禁じられ、背いた場合は厳しい罰が待っていたのです。
商業を肯定しつつも、幻想価値を否定し私利私欲を厳しく抑制したイスラムの商業。
私たちが知っている西欧発の商業・市場とは全く異なるものではないでしょうか。
こうして形成されたイスラム商業・市場は、その後のイスラム帝国の繁栄に伴って急拡大して行きます。
その動因はなんだったのでしょうか?
◆イスラム帝国≒アッバース朝の大繁栄
まず、下の地図を見てください。
これがアッバース朝の商圏です。
イスラム帝国の支配範囲のみならず、周辺他国を取り込んで大商圏に発達、約500年に渡って交易を行っていたのです。
この大商圏は、どのようにして作られたのでしょうか?
まずイスラムが優れていた点は、優秀な人材を登用できるシステムにより集団統合度が段違いだったことが挙げられます。
キリスト教が300年かかった覇権奪取。イスラムがたった数十年で成し遂げた理由は何か?から引用します。
その違いは、社会を統べる志と能力のある人材(引用文中では知識人)が、ストレートに社会と関わる土壌が備わっていたかどうか。
現実社会の否定視からスタートし現実を直視する人材を排除する立場にあったキリスト教に対し、目の前に横たわる問題の解決策を追求するために有能な人材を次々と登用出来たイスラム教。
両者の根本的な違いがそこにある。
このようにしてイスラムは周辺のキリスト教国を圧倒し、瞬く間に領土拡大して行きました。
そして、占有した領土では、注目すべき現象が起きていたようです。
なぜイスラムで商品貨幣経済社会が発展したのか?から引用します。
イスラム世界が征服によって領土を拡大することによって、それまでの古代以来の旧体制が破壊されました。
それまでの支配者、特権階級たちが放逐され、貨幣を獲得することで社会的地位を獲得する社会が広い地域を覆い、古い支配層の代わりに貨幣の貴族たちが取って代わります。 こうして、ブルジョワジーの発展はイスラムから始まったのです。
イスラムは占有と同時に、旧体制、すなわち武力統合を基盤とする序列原理を破壊しました。
合わせて彼らは、自分たちの商業ネットワークに食料や綿織物などの生活必需品を組み込んで流通させます。
それを可能にしたのが、実態価値と直結し、労働と引換に誰もが手にすることができた『貨幣』だったのです。
支配層のための贅沢品のみが流通していた、それ以前の状況からすると天地の差。
絶対的な序列原理の元、どうしようもない貧困に喘いでいた占有地の大衆からすると、イスラムは文字通り救世主に写ったことでしょう。
こうして占有地でもイスラムは受け入れられ、冒頭の大商圏の形成に繋がっていったのです。
ここで本シリーズ第1回目で出てきた『イスラム諸国の人数比』を表した地図を見てみましょう。
どうでしょう?
アッバース朝滅亡から約500年以上の時を経ているにも関わらず、当時の大商圏とほぼ一致します。
これらの地域もアッバース朝滅亡以降は市場原理主義の波に飲まれたはずですが、その本質は決して失わず、大商圏とともに伝わってきたイスラムの思想はしっかり残っているようです。
『イスラム商業の正しさ』が分かる事象ですね。
◆改めてイスラムにとって商業とは何なのか?
イスラム発祥の地であるアラビア半島は、一面の砂漠です。そこでは採取生産・農業生産など到底不可能。
なおかつ掠奪対象も近くにおらず、生きて行くためには商売(交易)しかない状況でした。
同時に、生産手段を持たない彼らには富の蓄積などやりようがなかったため、結果的に外敵からの略奪対象にもならず、部族単位の本源集団が残存します。このような部族集団にとって周辺他集団との交易、すなわち商業は、過酷な外圧を突破するための手段として唯一・絶対の選択肢になったわけです。
そして、部族集団を維持し続けるためには交易拡大⇒ネットワーク化が必須。
『いかにして外部集団との取引を広げ、かつ良好な関係を続けてゆくにはどうすれば良いか?』
という追求思考が定着して行ったと考えられます。
悪意ある取引は、相手からの不信を買い、結果的に自集団を攻撃される恐れがありますからね。
こうして交易を司る商人は、部族集団にとって無くてはならない、尊敬される存在となっていったのです。
イスラム・ネットワーク(宮崎正勝著)の『商人賛美と官吏批判』より引用します。
商人は尊敬され、知性ある人びとならば、商人を共同体のうちでももっとも敬虔な人びととみなし、商人の生活をもっとも安定した生活とみなす。
商人は自宅では王者のように玉座にすわり、人びとは生活に必要なものを得るために商人たちを探し求める。
これに反して支配者に仕える者は、みずからを卑下し、屈辱を感じながら媚びへつらわねばならない。
商人はそうした拘束を受けなくて済む。
マホメットもかつては商人であったし、ムスリムの先祖たちの職業も商業であった。
商業は学問を損なうという者もあるが、商人はあらゆる分野ですぐれた活動をしている。
◆『イスラムの商業』の今後は?
今回見てきたように『イスラムの商業』には、多くの学ぶべきポイントがあります。
大きくは以下の3点でしょうか。
1.幻想価値の否定。
2.私利私欲を抑制、利益はあくまで所属する集団のため。
3.取引相手の他集団をも尊重。
あらためて見てみると、イスラムの商業は、我々が目の当たりにしている『西欧発の市場経済』とは真逆の構造を持っているのですね。そして、今から500~1000年も前のアッバース朝で、既にこれが実現されていて、かつ広域に評価されて商業ネットワークとして拡大していったという史実には驚嘆するばかりです。
彼らの言動は、コーランや六信五行に記された『理論』『信念』『志』といったものに貫徹されており、だからこそ他集団にも信用され、受け入れられていったのだ、と推測できます。
このことは、『西欧発の市場経済』が瀕死の状態にある現在、ガタガタになっている社会を立て直し、再構築するために大変重要なことではないでしょうか?
イスラム金融が注目を集め、拡大しつつある状況も、このことを証明している気がします。
次回は『イスラムの性』についてです。お楽しみに。
投稿者 katsuragi : 2014年09月21日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://web.joumon.jp.net/blog/2014/09/1914.html/trackback