現生人類につながる類人猿はユーラシアで生まれた |
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2022年04月08日
人類の進化過程に見られる「ミッシング・リンク」
こんにちは!
前回の記事では、「現生人類につながる類人猿はユーラシア大陸で生まれた」という認識を整理しました。今回は、その続きを追求していきたいと思います。
類人猿は、ヒトに最も近い仲間であって分類学上はともにヒト上科(Hominoidea)をつくっています。しかし、彼らは今日の世界では繁栄したグループであるとは言えません。なぜなら、現生類人猿は、アフリカにゴリラ、チンパンジー、ボノボの3種、アジアにオランウータンと小型類人猿のテナガザル類が約10種棲息しているにすぎないからです。
しかし、時代をさかのぼると、中新世においては、類人猿は現在よりもずっと広い範囲で繁栄していたことがわかっています。現在発見されている最古の類人猿の化石は東アフリカ(現在のケニヤ北部にあるロシドクという産地)の漸新世(2500万年前)の地層から見つかっていますが、中新世に入ると、プロコンスルやアフロピテクス、ナチョラピテクス、ケニヤピテクスなど、類人猿がたくさん現れます。
一方で、類人猿→猿人への直接的な進化は、未だ解明されていません。そもそも、上述のゴリラ、チンパンジー、ボノボなどアフリカの現生類人猿の祖先が見つかっていないのです。また、猿人→原人への直接的な進化も、未だ解明されていません。そもそも、猿人と初期原人は同時代を生きていたことも近年の研究で明らかになっています。
これまで定説と考えられてきた、類人猿→猿人→原人→新人→現生人類という進化系統そのものが、覆りつつあるのです。そして、それらの進化の間には、ミッシング・リンク(化石生物の存在が予測されるのに発見されていない間隙)が存在しているのです。
◆類人猿→猿人に進化した説は本当?
類人猿は、中新世前期の1800万年前頃までにはアラビア半島からアフリカ南端まで広く分布していたことがわかっています。そして、アフリカ大陸とユーラシア大陸がつながって以降、類人猿の仲間もアフリカからユーラシアに進出しと考えられています。ユーラシア最古の類人猿化石(Griphopithecus)は、ヨーロッパから見つかっており、1700万~1600万年前の大臼歯のかけらです。中新世中期から後期(1300万~700万年前)には類人猿はヨーロッパや南アジア、中国などユーラシア各地に棲息域を広げていたことがわかっています(ヨーロッパのドリオピテクス、インド・パキスタンのシヴァピテクス、中国のルーフォンピテクスなどが代表的)。
一方で、アフリカではこの時代やそれ以降の類人猿の化石はほとんど見つかっていません。ユーラシアでも、中新世後期も半ばを過ぎると、類人猿の化石は非常に少なくなります。ヨーロッパでは1000万年前あたりで、類人猿が衰退。インド北部でも、700万年前頃を境に類人猿が化石記録から消えています。これらは、ヒマラヤ・チベット高原の隆起活動などによって世界的な気候変動が起き、類人猿の棲息に適した環境が縮小したためだと考えられています。これ以降の鮮新世には類人猿化石は皆無です。更新世になると、中国南部や東南アジアでオランウータンやテナガザルの化石が若干出土していますが、アフリカのゴリラやチンパンジーに直接つながるはっきりした化石は何も見つかっていません。
現在発掘されている最古の猿人は、アフリカ北中部で見つかったサヘラントロプス・チャデンシス(700~680万年前)ですが、類人猿から猿人に進化した存在なのか、類人猿と共通祖先をもつ存在なのか、現生類人猿の祖先なのか、いずれもハッキリしていません。
◆猿人→原人に進化した説は本当?
人類は、200万年ほど前、アフリカで猿人から原人(ホモ・エレクトス)に進化し、その後の現代人の祖先、現生人類(ホモ・サピエンス)へ進化したといわれています。しかし、猿人(アウストロアロピテクス属等)から原人への過程での化石がなく、その期間は考古学上の空白期間といわれてきました。
この解明中の期間「ミッシング・リンク」の猿人以降の化石が、アフリカではなく、2013年に中央アジアから見つかる大発見がありました。黒海に面したグルジアのドマニシ遺跡で、約180万年前の地層から原人の完全な頭骨化石が出土したのです。現代の人類と同じホモ(ヒト)属の初期の成人男性とみられ、完全な頭骨化石は非常に珍しく。人類の進化過程を解明する有力な手掛かりだとされています。また、この遺跡で見つかった5体の初期ホモの頭骨などの分析の結果、約200万年前のアフリカにいた「ホモ・ハビリス」や「ホモ・ルドルフエンシス」は、同じホモ・エレクトスと結論づけられています。5体の頭部や顔、歯などの個体差からみると、アフリカの2種との違いは別種と呼べるほど大きくなく、現在までにアフリカ以外で見つかった最古の化石人類(原人)です。
同遺跡で発掘されたこの化石は、同様な原人4体の化石断片や、粗末な石器が散乱しているのが発見された場所と同じところで見つかっています。これらの化石は全て約180万年前のものです。これらの原人の個体差は、チンパンジーや現生人類も含めた霊長類の間にみられる差異以上のものは見つけられず、世界各地で見つかった他の原人と共通してホモ・エレクトスに属している公算が極めて大きいと結論づけられています。ホモ・エレクトスは 約200万年前~約14万3000年前まで生存していたと考えられており、化石はアフリカ、スペイン、インドネシア、インド、中国で見つかっています。つまり、同一地域で年代の異なる地層から同じ種の原人が見つかったことで、以前には別種とされていた原人も同じ種である説が有力視されています。この発見で、猿人と原人の境界線がより明確になってくる一方で、約200万年前の地球上では多くの猿人と原人が混在していたことになります(現在見つかっている最新の猿人は、約180万年前のアウストラロピテクス・セディバ)。
◆進化過程に見られる「ミッシング・リンク」
上述までの通り、類人猿→猿人そして猿人→原人に直接的につながる進化過程は、2022年段階では未解明の状態です。しかし、サルから人類につながっているだろうことは、誰もが感覚的に理解できることではあります。故に、類人猿→猿人→原人→新人→現生人類という進化の流れが浸透しているのだと思われます。
しかし、その進化過程の分岐点や間にこそ、ミッシング・リンクが潜んでいるのです。実は、毎年のように新たな発見が世界各地でなされており、さらに過去に見つかった遺跡を最新技術で再調査することで新たな発見につながっているものもあります。例えば、1970年代にギリシャのアピティマ洞窟で見つかった2つの頭蓋骨化石を2019年に再調査したところ、片方はネアンデルタール人、もう片方はホモ・サピエンスで、現在ユーラシア大陸で見つかっている現生人類としては最古の約21万年前のものであることがわかっています。ということは、約14万3000年前まで生存していた原人(ホモ・エレクトス)と新人も現生人類も生存していた時期が重なるのです(インドネシアで見つかったフローレス原人は更に新しく、約4万年前まで生存していたという説もある)。では、原人→新人→現生人類という進化過程は本当なのでしょうか?
おそらく、今現在わたしたちが捉えているものとは違う「何か」が、その間に存在していたのでしょう。
その「何か」が、発見されたとき、私たち人類は祖先の壮大な進化の歴史にふれることができるのかもしれません。
参考文献
・東部ユーラシア新第三紀の化石類人猿(國松,2002,京大霊長類研)
・ヒトを生んだ者たち~類人猿2500万年前の進化(國松,京大霊長類研)
投稿者 asahi : 2022年04月08日 TweetList
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