「稲作伝播は私権社会の引き金か?」2~縄文人と農耕技術 |
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2009年12月18日
アイヌ民族は縄文人の末裔か?(5)~アイヌ語と日本語の関係~
(画像は「よみがえれ!アイヌ語」からお借りしました。)
新テーマ「アイヌ民族は縄文人の末裔か」
アイヌ民族は縄文人の末裔か?(1) アイヌの歴史と文化(基礎データー編)
アイヌ民族は縄文人の末裔か?(2) ~「アイヌ論争」~
アイヌ民族は縄文人の末裔か?(3) ~「オホーツク文化」~
アイヌ民族は縄文人の末裔か?(4)~「東北蝦夷とアイヌ人の関係を見る」~
これまでのアイヌ民族の追求によって、アイヌ民族は縄文人の末裔であることが明らかとなりました。今回はアイヌ民族の根幹にある『アイヌ言語』について追求していきます。
アイヌ語は、アイヌ民族特有の言語で広く北海道、樺太(サハリン)、千島列島(クリル諸島)に分布します。日本語と同様に、独立した言語とされています。それは日本語と地理的に比較的に近い位置で話されてきたにもかかわらず、日本語との間にはそれほど共通点が見いだせないからだと言われていますが・・・
本当にアイヌ語は日本語や周辺の地域とは異なった独立した言語なのでしょうか?
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アイヌ語は、語順(SOV語順)において日本語と似るものの、文法・形態は膠着語である日本語と異なり、抱合語というイヌイット(カナダ北部グリーンランドなど)やアメリカ先住民族らの言語(エスキモー諸語、インディアン諸語など)の間でしか見られない珍しい分類に属するとされています。
文法形態の分類上の違いは、下記サイトを参考にまとめてみました。
日々雑記いろいろあらーなカルスタクラブ
◆文法形態の分類
①膠着語
=日本語、韓国朝鮮語、満州語、モンゴル語、トルコ語、フィンランド語、ハンガリー語など。
膠着語の「膠」は、「にかわ」のこと。にかわでくっつけたように、文法上重要な意味合いを持つ要素を単語にくっつけていくので「膠着語」と呼ばれているのです。助詞の「が・を・に」などがそうです。このように基本の語(自立語)に附属の語(非自立語・付属語)がついて、文法上の機能を表わす。
日本語は、名詞に格助詞や副助詞がくっついて、文中の機能をしめす。 「私」「ねずみ」という基本の自立語に格助詞「が」がつけば、「私が」「ねずみが」と、主格を表わし、「の」がくっつけば、「私の」「ねずみの」と所有をあらわす。対象格(目的格)は、「私を」「ねずみを」
②屈折語
=ラテン語、ギリシア語、アラビア語など。
屈折語というのはある単語の一部(大抵は語尾)を様々に変化させることで意味合いを変えるというタイプのものです。例えばラテン語で息子を意味するfiliusを格変化させてみます。
単数形:filius(息子は・が)、filii(息子の)、filio(息子に)、filium(息子を)、filio(息子で・から)、fili(息子よ)
複数形:filii(息子たちは・が)、filiorum(息子たちの)、filiis(息子たちに)、filios(息子たちを)、filiis(息子たちで・から)、filii(息子たちよ)
③孤立語
=中国チベット語族(中国語、チベット語、ビルマ語、ベトナム語、ラオス語、クメール語)、英語、サモア語、タイ語。
孤立語は語順が命の言語です。語形変化や文法的な機能を担う接辞があまり存在しないため、語順に頼らざるを得ないタイプの言語です。また語形変化がないため、基本的に時間的な判断(過去・現在・未来)などは文脈や「明日」「昨日」などの副詞で判断されることになります。
我打他(私は彼をたたく)、他打我(彼は私をたたく)
④抱合語(包合語、複合統語)
=シベリアからアメリカ一帯のネィティブ住民のことば(エスキモー語、グリーンランド語、コーカサス語、アイヌ語など)
抱合語は一つの単語(主に動詞)に目的語やら副詞やら代名詞やら様々な意味を持つ接辞が次々とくっつき、全体としては長い一単語なのに、まるで一つの文であるかのような働きを生み出すタイプの言語です。まさに一つの単語がいろんな要素を「抱き合わせている」わけです。抱合語ではひとつひとつの意味要素が分かちがたく総合的にくっついて全体の意味を表現します。
アイヌ語を例にとると、
usa-oruspe a-e-yay-ko-tuyma-si-ram-suy-pa
これは単語としては2つであるが、各形態素を直訳すれば
いろいろ-うわさ 私(主語)-について-自分-で-遠く-自分の-心-揺らす-反復
つまり「いろいろのうわさについて、私は遠く自分の心を揺らし続ける=思いをめぐらす」という意味になる。2番目の動詞は語幹suy(揺らす)に様々なものがついて形成されており、1の意味の抱合語(正確には複総合的言語)に該当する。このうちa(1人称)、e(について)、yay(自分)、ko(で)、si(自分の)、pa(反復)は文法的機能しか持たない接辞であるが、tuyma(遠く)とram(心)はそれ自体で意味を持つ副詞および名詞であって、これらが動詞に加わって「思いめぐらす」という意味の新たな動詞語幹を形成している。この点では2の意味の抱合語に該当する。(Wikipediaより引用)
文法形態の分類上では、たしかにアイヌ語は独立した言語と考えられます。
ではここで在野ながらも地道にアイヌ語を研究されていた、永田良茂氏の研究成果を取り上げてみたいと思います。
◆アイヌ言語と他言語の親縁関係
『日本語の起源とアイヌ』(著:永田良茂)より以下引用
***************
スワディッシュの基礎語彙100語における親縁関係を集計した結果を次の表にまとめてみた。
・日本語(古語)もアイヌ語も南島祖語、インドネシア・フィリピン祖語、台湾諸語とは同程度の親縁関係を示す。→アイヌ語は明らかに南島語族に属す。
・日本語と沖縄語との親縁関係は明らかであるが、日本語とアイヌ語の間の親縁関係も認められる。
・アイヌ語語彙の他言語との親縁関係が認められないものには別語を合成してできたもの(合成語)であるという、理由の明確なものが多い。
・アイヌ語は古く南方からの人々と共に入ってきて、縄文時代に日本列島を北に駆け抜け、最終的に北海道に閉じ込められた、縄文語を純粋培養してきた言葉であることを、このデータは証明するものであろう。
***************
永田氏のアイヌ語と南島語の親縁関係と日本語と南島語の親縁関係の研究結果から、アイヌ語と日本語は同じ南島祖語に属しているといえます。アイヌ語と日本語のみを比較しただけでは読み取れなかったのですが、南島祖語との親縁関係からアイヌ語と日本語は元々は南島祖語を根底とした言語であり、その後お互い派生していったものではないかと考えられます。
このことは前回の投稿で明らかとなった
>日本列島は大きくは南方モンゴロイドと北方モンゴロイドという古モンゴロイドの混血、さらにはその後に渡来した北方適応した新モンゴロイドの混血によって文化が形成されていきますが、そのいずれもが縄文時代の激しい気候変動によって繰り返し頻繁な人の移動が成されたことによって形成されてきたように思います。
という状況認識と照らし合わせてみると論理が整合してきて面白いです。
これまでの状況認識と調査結果からアイヌ語成立までの仮説を立ててみます。
◆日本への渡来
2~3万年前に寒冷期をむかえ北方モンゴロイド【抱合語】が、大陸から地続きとなっていた日本列島の北側より南下し東日本へと移動し、続いて1.5万年前には南方モンゴロイド【南島語】が大陸沿岸部を通り朝鮮半島から九州を通って西日本へと移動してきます。
◆縄文語の形成
6000年前には温暖化により西日本の南方モンゴロイドが東へ移動し、北方モンゴロイド【抱合語】と南方モンゴロイド【南島語】が接触するものの、元々殺し合いの観念や経験もないため和合(=混血)し文化が融合していきます。その東日本と西日本が融合し縄文文化・【縄文語】を形成しました。(抱合語と南島語がどのように融合したのか?は今後の追求課題です。)3000年前には寒冷化により東日本の縄文人が西へ移動し、全土へと縄文文化【縄文語】が伝播していきます。
◆弥生語の形成
その後西日本では、2500年前には中国の江南から江南人【南島語】が東日本へと渡ってきて稲作文化を伝え、縄文文化と稲作文化が融合した【弥生語】が形成されます。ただし渡来人が少数であることを考えれば、弥生語はほぼ縄文語をベースとして新たな稲作文化の単語を付け加えた言語だったと考えられます。
(画像は「日本人の起源」からお借りしました。)
◆日本語の形成
さらに2000年前には朝鮮から渡来人【アルタイ語】が移動してきます。
彼らはその高い技術と文化から、次第に日本の支配階級へと上り詰めていきます。その中で徴税と外交(内外交渉)は不可欠であり、そのためには税を記録したり、文書を作成するための文字が必要となってきます。ただし当時の日本の【縄文語(弥生語)】は文字が確立しておらず、また渡来人も現地人に比べ少数のため、【アルタイ語】に統一するのも困難な状況でした。
そこで現地人の言葉【縄文語(弥生語)】の音を中国の文字(漢字)に当てはめて(万葉仮名)、さらに【アルタイ語】の文法で意味を持たせることで新たな言語を創っていきました。つまり文法はアルタイ語、基層言語は【縄文語(弥生語)】(≒【南島語】)の混合語である【原日本語】が形成されました。そしてこれが現代の日本語へと繋がっていきます。
ただし言語がいきなり変わったとは考えられ難いので、始め原日本語は支配階級(上流階級+役人)のみの共通言語として使用され、庶民は元々現地にあった縄文語(弥生語)を長い間使用していたと考えています。
⇒日本語の形成についての詳細は、ブログ『知られざる人類婚姻史と共同体社会』で現在追求中ですので、興味を持たれた方は是非ご覧下さい。
◆アイヌ語の形成
東日本では縄文晩期に当る3000年前に、寒冷適応した新モンゴロイド【アルタイ語】が渡来し亀ヶ岡文化を形成します。またその後2400年前には続縄文文化、さらに2200年前にはオホーツク文化(新モンゴロイド【アルタイ語】)と融合した擦文文化と続いて、後のアイヌ文化【アイヌ語】へと繋がっていきます。このように東日本(東北以北)の縄文人は他文化の影響を受けながらも、独自の文化を発達させその過程で言語も縄文語を基底としながら醸成しアイヌ語を形成していったと考えられます。
ただしアイヌ語の分析結果(アイヌ語の【南島語】に比べて【アルタイ語】の親縁関係の低さ)から分かるように、渡来した新モンゴロイド【アルタイ語】は現地人に比べ少数で、ほぼ現地人に同化しながら融合し馴染んでいったためと考えられます。
◆まとめ
今までの日本人の起源に関する議論では、DNAによる血統や体質等に注目した議論が多くなされてきました。しかし、これ単独で判断することにはあまり有用性を感じません。なぜなら集団は言語や思想性や規範など、何を受け継いでいったのか?その共認内容によって集団が規定されてくるからです。今後の日本人の可能性を探っていくためにも、もっと注目すべきはこの共認内容ではないでしょうか?
日本語とアイヌ語は違う言語です。しかし今回の追求で明らかになったように、日本語もアイヌ語も南島語(≒縄文語)が基底にあります。
では今後の日本人の可能性と考えられている共同性(≒縄文体質)とは何か?この日本語とアイヌ語の基底にある縄文語を追求することで探っていくことができるのではないでしょうか?(るいネット 日本人と縄文体質)
特に縄文語を独自に醸成していったアイヌ語には、縄文人の共認内容を探っていく可能性が大いにあると感じます。
次回のアイヌ追求のテーマは、集団の最基底ともいえるアイヌ民族の性=婚姻についてです。アイヌ民族は母系制なのか父系制なのか?史実を見ながら追求して行きます。
お楽しみに☆
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
文責:みっちー
<参考図書>
「日本語の起源とアイヌ語」(著:永田良茂)
「DNA・考古・言語の学際研究が示す新・北海道史」(著:崎谷満)
「アイヌは原日本人か」(著:梅原猛、埴原和郎)
「アイヌと「日本」」(著:佐々木馨)
「アイヌの歴史」(著:瀬川拓郎)
投稿者 staff : 2009年12月18日 TweetList
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コメント
投稿者 カッピカピ : 2010年2月28日 23:27
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