なぜ人類は洞窟から出ることができたのか~縄文時代における大型動物の絶滅について |
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2022年04月29日
初期人類は森林の中で地上生活を始めた!?
「なぜ、人類は木から降りて地上生活を始めたのか?」
上記の議論はよく聞きますが、一般的にはすぐにアフリカのサバンナ生活を始めたというイメージが定着していると思います。しかし、最初期の人類は、森林環境、あるいは少なくとも生活圏のなかに森林が入り混じった湿潤な環境で生活していたことが、近年の研究で明らかになっています。
ヒトの祖先は、木から降りてもまだ森林の外には出ていなかったようです。では、どうして森のなかで地上生活を始めたのでしょうか?
■地上生活は森のなかで始まった
およそ700万年前、大型類人猿とヒトが分かれる前の共通祖先は、アジア・ヨーロッパ・アフリカを包括する広い範囲の熱帯雨林で樹上生活をしていた大型テナガザル(大型類人猿)だと考えられます。それは、現在のヒトとも類人猿とも違う生き物でした。
ところが、1年中温暖湿潤だった熱帯雨林に大きな変化が起きたのです。およそ900万年前以降の後期中新世、ヒマラヤ地域の上昇により、モンスーン気候(季節性気候)が強まりました。その結果、熱帯地域では乾季が長くなり、乾燥化が進み、森林が存続できず(森林面積が減少)、次第に木がまばらになり、やがて熱帯草原(サバンナ)へと植生が変わっていきます。
そのため、ヒトの進化はサバンナ仮説が一般的に有力視されてきました。
※サバンナ仮説:森林の後退でサバンナでの生活が始まり、二足歩行などさまざまな人間の特徴を進化させ、猿人(アウストラロピテクス)の時代(400〜200万年前)に、サバンナへ生息域を大きく広げたとする仮説。
ところが、近年発見された初期人類の化石によって、従来のサバンナ仮説は覆りつつあります。
最古の化石人類をはじめ、初期人類の化石はみな森林に近い環境から見つかっているのです。いずれの化石種も、直立二足歩行を示す特徴を持ち、限定的ながら地上生活を始めていたことがわかってきたのです。また、化石の歯の同位体分析によると、森林の外の食物を摂ることはほとんどなかったという結果が出ています。つまり樹上に住んでいて、食物を探すときに地上へ降りて、これが地上生活を促したと考えるのも無理があることになります。ヒトの地上生活は森林が生活の中心だったころに既に始まっていたのです。
では、なぜ初期人類は森林のなかで地上を使うようになったのでしょうか?
■現生類人猿の生態から探る地上性の起源
これを探る鍵は、現生類人猿の地上利用時間です。熱帯林では、太陽光はほぼ林冠部の葉で受け止められ、森林上部が高温になります。そこから対流や放射で温度が伝わるので、太陽光の届かない林床はずっと気温が低くなります。気温の低い雨季には樹上、暑い乾季には涼しい地上ですごして体温調節のエネルギーを節約しているという考察が近年なされています。
そこで、季節性の強い森と季節性の少ない生息地での地上利用時間、および森林内気温の高さによる違いを観察することで、かつて年中温暖湿潤だった時代から乾期が明瞭になった時代にかけて、ヒトの祖先が森林内の温度環境にどのように反応したか推測できるのではないでしょうか。
乾期がなく1年中雨量が多い典型的な熱帯林はアフリカの中央部、コンゴ盆地に分布し、そこにはチンパンジーの近縁種、ボノボが住んでいます。ある研究では約3年間にわたり、西アフリカのボッソウに2回、ボノボの調査地であるコンゴのワンバに3回、それぞれ2か月から4か月の調査をおこなって地上利用時間の季節変化を調べられています。
結果は予想通り。どちらの森林でも地上付近は林冠より4〜7度、気温が低かったのです。そして、ボッソウ、ワンバどちらでも、気温の高い日は地上にいる時間が長くなりました。ボノボの住む森は気温の季節差があまりありません。したがって、季節ごとの平均を取ると、地上利用時間は少ないままで変化しないのです。樹冠の食物の量は地上利用時間に影響しませんでした。つまり、森林内気温の季節変化が地上利用時間を増やす主な要因となっています。
哺乳類の体温調節機構は基本的に共通しています。季節馴化で環境温度の季節変化に生理的に対応しますが、やはり気温が高い季節には涼しい場所に移動したり、放熱が良い姿勢で休んだりします。つまり、行動的な体温調節で生理的な季節馴化を補います。私たちも同じ行動をしていると思います。現生類人猿とヒトの祖先の体温調節機構が違っていたとは考えにくいでしょう。
初期人類化石の発見地は、1,500万年前の温暖期のピークには広くアフリカ大陸を覆っていた熱帯林の周辺部にあたると考えられます。季節性気候が強まった影響は避け難いことだったでしょう。実際にラミダス猿人の生息地は乾季が明瞭な森林だったことがわかっています。樹上性でほとんど地面に降りることのなかった人類の祖先にとって、気温の季節変化は地上にいる時間を増やす強い要因となったと考えられます。乾季の出現という季節の始まりがヒトの地上生活のきっかけだったと推測できます。乾季が4〜5か月以上続くと熱帯林は存続できません。森林が後退したあと、樹が点在する開けた環境に適応できたのは、森林内ですでに季節的な地上生活を経験していたからだと思われます。
■では二足歩行の起源は?
二足歩行の起源にはさまざまな仮説があり、それらのほとんどは開放的環境、つまりサバンナへの進出を仮定の出発点においています。もちろん定常的な二足歩行の確立には、サバンナのような環境が必要であったのかもしれません。しかし、初期の二足歩行をおこなっていた我々の祖先は、森林を生活の中心にしていたと考えられます。
森林のなかで、直立二足歩行はどういう点で有利だったのか?大型類人猿の行動研究から、二足歩行は不安定な枝の上で果実を取るために樹上で始まったとする仮説もあります。ただ、現在の類人猿の骨盤などの形態は初期人類とは異なるので、人類の二足歩行の起源には直接適用できないかもしれません。
いずれにしろ、二足歩行の起源・地上生活の起源・サバンナへの適応という人類進化のイベントには、それぞれ別の生態学的な説明が必要と思われます。今後は、アジアの類人猿であるオランウータンの生態と生息環境を調べ、人類の進化についてもっと追求していきます。
参考文献
Hiroyuki Takemoto. (2017). Acquisition of terrestrial life by human ancestors influenced by forest microclimate. Scientific Reports, 7, 5741.
杉山幸丸編著.(2010).ヒトとサルの違いがわかる本.オーム社
投稿者 asahi : 2022年04月29日 TweetList
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