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2010年07月19日

シリーズ「インドを探求する」第8回~インドにカーストが発達した理由、継続した理由~

 インド社会を考えるとき、避けて通れないのが、インド独特の厳しい身分制度カーストです。
 今回は、何故、インドでは独自の身分制度であるカースト制度が強固に発達し現在も強い影響力を持っているのか。について考えてみたいと思います。
■カースト制度が誕生した直接的理由とその意義
caste-india.gif
 アーリア人によるドラビダ人の支配を武力を用いずに行なうためのドラビダ人を納得ずくで従える制度である。
 この制度が誕生し、社会共認になった時にアーリア人のドラビダ支配は成立した。そして、武力によらずに秩序、序列制度を確立しえた点においては他の地域に比べて優れた制度と言える。
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●カースト制度の初期形態=ヴァルナ制度
 「ヴァルナ」とは「色」のことで、侵略者アーリア系白色人種とインド先住民族の有色人種を区別するために作り上げた身分制度が「ヴァルナ制度」 で、アーリア人がドラビダ人を支配する際の観念として使った。
 これを正当化する為にヴェーダという体系を作り出したのである。
 BC10世紀頃とみられるインド最古の文献リグ・ヴェーダの次の一節は有名です。

 彼ら(神々)がプルシャ(巨人)を切りわかちたるとき、いくばくの部分に分割したりしや。彼(プルシャ)の口は何になれるや、両腕は何に。両腿は何と、両足は何と呼ばるるや。
 彼の口はバラモンなりき。両腕はラージャニヤ(クシャトリヤ)となされたり。彼の両腿はすなわちヴァイシャなり。両足よりシュードラ生じたり。

●ドラビダ人がなぜ身分差別を受け入れたか

 インドの気候は雨季と乾季がはっきり分かれており、乾季の間に干上がった大地は雨季の到来とともに蘇る。そしてあたり一面緑の世界となり、地中では虫どもが活動を始める。
 こうした雨季・乾季の循環が見られるインドの大地で生と死を繰り返すという輪廻思想が自然を表す思想体系として誕生した。
 そして、アーリア人は既にドラビダ人の中にあったこの輪廻思想を、身分序列を正当化する理屈としてヴェーダに組み込み、ドラビダ人に追共認させた。

 来世で、どのような姿をとって再生するかは、前世の行為(業)によってきまる。祭祀や布施や善行に努めた者はバラモンやクシャトリヤとして生まれ、悪を行なった者はシュードラや畜類などとして生まれる。
 この世の生まれは前世の業の結果であるから、シュードラに生まれようと、不可触民に生まれようと、宿命として甘受しなければならないのである。

 現在でも、保守的な農村地帯であるパンジャブ州では、国会議員選挙に、大地主と、カースト制度廃止運動家が立候補した場合、大地主が勝ってしまうという。現世で大地主に奉仕すれば、来世ではいいカーストに生まれ変われると信じられているからだ。
●カースト制度はインドの生産基盤と密接に連動していた。
 村の経済活動の中心は土地保有農民(大多数はシュードラ)である。
 雨季と乾季がはっきりしたインドで、農業において最大の収穫を上げるためには、限られた時期に大量の労働力を用いる必要がある。しかし、そうした労働力の提供者を、農繁期のためだけに、村に常住させておくことはできない。
 一方、職業の専門化がカーストの形成というかたちで進み、またヒンドゥー教の浄・不浄思想が浸透した結果、他カーストの労働に頼られねばならない種類の仕事が増えた。たとえば、宗教儀礼の執行、大工・陶工・理髪・洗濯の仕事、死畜の処理や汚物清掃といったさまざまな労働である。
 そこで農民は、これらのカーストの成員に住む場所と生活の保証を与えて、彼らを村に抱え込んだ。彼らはバラモンなどを除き、農繁期における農業労働を提供した。
 こうして農民は、日常生活において自分らにふさわしい浄性を保ち、農繁期に安定した労働力を確保するという、二重の希望をかなえることができたのである。
●カーストを継続させるための装置⇒不可触民制度
 4つのヴァルナの下には、被差別階級である不可触民の諸カーストが存在した。
 グプタ時代(550年頃)以後の社会でシュードラ差別が徐々に消えたのとは逆に、不可触民差別はさらに複雑に発達した
 かれらは村の生活における「不浄」部分の分担者として、また農繁期の労働者として迎え入れられた。
 不可触民の存在は村人たちに一種の優越感を与え、そうした感情によって、不平等に起因する村内の緊張関係が緩められた。こうした安定は、地方の権力者や地主・土地所有農民の期待に応えるものであった。
 つまり、シュードラの不満、反発を防ぐために最低の身分を人工的に作り出したのである。
~これは日本の鎌倉以降の河原者、江戸時代のエタ、非人と全く同じ仕組みである。
■カースト制度の2面性~単なる身分制度ではない
 カースト制度は身分序列制度であると同時に血縁や出自を重要視しそれが共同性を高めた為、ドラビダ人の集団性を高め、かえって歓迎される部分もあった。
 さらにそれをインド全体を包含する統合宗教であるヒンズー教に組み込む事で、神によって定められた役割として身分制度は規範化された。
通常の身分制度との決定的な違いはここにある
 他地域の制度=やむを得ず追共認する制度
      武力が必要。常に転覆の可能性がある。
 カースト制度=宗教に組み込まれた社会規範であり、共同体規範でもあり、宗教によって主体的に追求する制度
      武力は不要。転覆の可能性は低い
◆上記をまとめると
・アーリア人侵入による白人と黒人の並存~どうする?という課題が登場 
 敗北遊牧民であるアーリア人が武力は使わずに統合する方法を考えた。
 それが、ドラビダ人の輪廻思想を組み込んで作り上げたヴァルナ制度であり、
 さらに、農業の発達とともに、血縁による共同体意識と結びつきついて強固なカースト制度となった。
 そして、カースト制度はヒンズー教によって保護、正当化され、発展してきた。
しかしさまざまな新産業の登場でカースト制度はきしみ始めている
IT技術などはその先端事例
 

多くのインドの子供たちにとって出身カーストが低くても能力が高ければチャンスがつかめる「IT技術者」「ソフトウェア設計者」「医師」は将来なりたい人気の職種になっています。

   ※金貸しブログ
~即ち、インドで新産業が起き、そこを求めて可能性収束するのはすでにカースト制度が崩壊過程に入っている事を示しているのではないか?
 
 インドの可能性とは脱カーストをしながら新産業へ緩やかに転換している事であり、それらも含めて認めるヒンズー教の奥の深さでもある。
 インドに仏教が根付かなかったのは、このインドの社会秩序の根幹であったカーストを否定するばかりであらたな統合軸を提示できなかったからである。否定の論理はいつの時代も定着はしないと言える。
 
<参考>
「古代インドの文明と社会」山崎元一著
カースト(ウィキペディア)
「ヴァルナとカースト」 
インド理解のキーワード—ヒンドゥーイズム—

投稿者 tama : 2010年07月19日 List  

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コメント

南方を生き抜いた人々。北方を生き抜いた人々。両方の気候に適応してきた人々が、後に融合したという点が興味深いですね。縄文人の生活様式の豊かさも、融合に起源があるのかもしれません。

投稿者 さーね : 2010年10月14日 19:16

松本秀雄先生によれば、血液学や遺伝学そして分子生物学の立場に立つと日本民族バイカル湖畔起源説を提示しているという。
http://bloom.at.webry.info/200707/article_7.html
という説があるみたいです。
日本人の受け入れ体質、どちらかといえばおっとりした気質は、南方系の血筋だとおもっていたのですが、シベリア・バイカル湖起源といわれてすこしビックリです。
でも日本人にとってシベリアは縁のある土地がらかもしれませんね。

投稿者 2U : 2010年10月14日 19:21

 昔は南西・北共に繋がっていたんですね。これなら確かに大量の民族が移動してきたのにも合点がいく・・・というかそちらの方がしっくりきますね。

投稿者 dai : 2010年10月14日 19:27

挿入されている「ブリヤード人村入村儀式」の写真を見ると、2人の上着の袖の卍模様(ラーメン用椀の縁模様)は、アイヌ人の着るものと全く同じですね。
何千キロも離れた民族同士の風俗が酷似しているというのは、まさに「日本人はるかな旅」ですね。

投稿者 ryujin : 2010年10月14日 22:21

縄文人の人口が、最大でも30万人http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1150.htmlであることを考えると、いろんな方面から辿り付き、争いも無く、住み着き、棲み分けしていたことは充分考えられます。
逆に、そんな少ない人口で
黒曜石等の“贈与”がどのように行なわれて発展していったのか?詳しく知りたい所です(今すぐでなくて結構です)。黒曜石等が、日本各地から贈られて一箇所に集まっていることを考えると、移動範囲も広く、贈与する目的がはっきりしていたり、情報を得られる手段を持っていないと成立しないと思われます。

投稿者 nishimu : 2010年10月14日 22:55

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