2022年1月26日
2022年01月26日
【縄文再考】様々な地域から来て日本列島で混血した縄文人≒「多様性が縄文時代の人々」
旧石器時代の人類到達ルート 画像はこちらから
皆さん、こんにちは!
今回も、縄文人のルーツを探るお話です。人類の拡散とも関連します。
遺伝子は、DNAの塩基配列に表れる遺伝情報。分子生物学で盛んにおこなわれるミトコンドリアDNA(mtDNA)は、細胞の中の細胞小器官の1つであるミトコンドリアの持つ遺伝情報の読み取り。塩基配列を対象とすることから「シーケンス」、読み取る機械をシーケンサーと呼びます。
このmtDNAを全世界的に現生人類から採集して、単一の一塩基多型 (SNP;一塩基の変異が集団内で1%以上の頻度であるときの一塩基。低いときは突然変異と呼ばれる)変異があって共通祖先をもつと思われるよく似たハプロタイプの集団(ハプログループ)を想定して、人類の起源と派生ルートを想定しています。これが、よく言うミトコンドリア・イブを創出し、人類アフリカ単一起源説を導出した分析方法です。次世代シーケンサーの活用でより活発化しています。
しかし、各地で発掘される化石人骨などのDNA分析と照合すると、他にも検討すべき事項が出てきているのも事実。中でもアジア地域における、原人、旧人らの派生の様子は、単にアフリカ起源とするには多様性があり過ぎることが昨今話題となっています。
人類アジア起源の可能性の検討
篠田謙一博士「DNAで語る日本人起源論」(岩波現代全書)より引用します。
P65「2010年5月、ペーボたちは次世代シークエンサーを使って解析したネアンデルタール人のゲノムのドラフト(概要)を発表します。そのなかで、核DNAレベルで現生人類とネアンデルタール人が交雑している証拠が見つかりました。ネアンデルタール人はアフリカ人よりも、中国人やフランス人といった出アフリカを成し遂げた集団とSNPの変異を共有していたというのです。このことは、出アフリカを成し遂げた集団が、中東のどこかでネアンデルタール人と交雑したと考えるとうまく説明できます。混血の程度は2~5%と見積もられ、それほど大きいものではありませんでしたから、大規模な交雑があったとは考えられていませんが、ファースト・コンタクトは従来考えられていたような、現生人類による先行人類の一掃といった単純なものではなかったようだ、というのが最新のDNA分析によって導かれた結論となっています。(略)21世紀になって定説となりつつあった『アフリカを出たホモ・サピエンスが旧大陸に残るネアンデルタール人や原人の子孫を駆逐しながら世界に広がった』という新人のアフリカ起源説は、一部修正を余儀なくされることになりました。」
P66「約80万4000年前にデニソワ人とネアンデルタール人の祖先が現生人類と分岐し、それから後の約64万年前にネアンデルタール人とデニソワ人が分岐したと訂正されています。この研究でも現代人との間の交雑が検討されましたが、不思議なことにデニソワ人と東アジアやヨーロッパの集団との間には交雑が認められず、メラネシア人のゲノムの4~6%だけがデニソワ人固有のものと一致することが示されました。その後に行われた東南アジア集団の詳細な解析で、デニソワ人のゲノムがこの地域の広範な集団に共有されていることが明らかとなり、交雑の起こった地域も東南アジアである可能性が指摘されています。」
P68「今のところアフリカで出土した原人化石からのDNA分析は報告がありませんが、サハラ以南のアフリカ人の大規模なゲノム分析から、彼らのゲノムには2%程度絶滅した人類のDNAが伝わっていると推定されています。この未知の人類は70万年ほど前に私たちの祖先から分岐し、3万5000年ほど前に中央アフリカでホモサピエンスと交雑したとされています。また2013年には、サウスカロライナ州に住む一人のアフリカ系アメリカ人のY染色体DNAが、30万年以上前に他の現代人の系統から分岐した未知の系統に属するものであるという研究結果も報告されています。Y染色体のDNAデータベースの検索によってこの系統はカメルーンの西部のごく狭い地域に起源することも突き止められており、ホモ・サピエンスがアメリカの西部で未知の旧人類と交雑していたことを示す証拠となっています。」
P78「意外なことに、アフリカと中近東を除くと最も古い年代を示すホモ・サピエンスの人骨は、アフリカに近いヨーロッパではなく、東南アジアやオーストラリアで見つかっています。前章でも述べたように、このことを根拠に出アフリカを成し遂げた人類は、最初に南アジアを通過してオーストラリアに至る経路に沿って展開したのではないかとと予想されています。」
今のところ、アフリカ起源説を明確に否定はしないものの、割と早い時期にアジアに到達した、と言わざるを得ない様です。
現生人類へ至る古代人類の進化と移動の過程が、思いのほか多様であることにDNA分析により気づかされつつある、という状況です。
大きくは、アフリカ~西アジアエリアと、南~東南アジアエリアに大きな人類集団のまとまりがあるようです。
縄文人とは何か
同じく「DNAで語る日本人起源論」より引用します。
P191「縄文人は旧石器時代にさかのぼる周辺の南北双方の地域から流入した人々が、列島の内部で混合することによって誕生したと想定できます。人骨の形態学的な研究をしている片山一道さんはかねてから、縄文人はどこから来たのではなく、列島内で縄文人になったのだと主張しています。私たちは、これまで縄文人の起源を求めて日本の周辺の各地で人骨の形態を調査してきました。しかし、その時間の幅を現代にまで広げてみても、アイヌの人たち以外に縄文人に似た形態をもつ集団は存在しませんでした。その為縄文人の源郷を探る試みは頓挫しているのですが、そもそも縄文人は由来の異なる人々の集合によって列島内で誕生したと考えれば、外部に形態の似た集団を探すことに意味は無いことになります。」
P197「他の東アジア集団との比較では、縄文人のユニークな遺伝的特徴が際立つ結果となりました。更にはデータの揃っているアジアを中心とした世界の様々な集団を加えて集団の近縁関係を分析してみると尻労安部洞窟の縄文人は東ユーラシアの集団の根幹から分岐していることも示されました。このユニークな縄文人の特徴は、ミトコンドリアDNAの節でも説明しましたが、縄文人がアジアの広い地域の集団からDNAを受け継いでいるので、特定の集団と近似しないのだと考えると説明が出来そうです。実際後述するように、分析によって東アジアの広い地域の集団が低頻度ながら縄文人と同じSNPを共有していることも分かりました。今のところ核ゲノム分析の結果も、旧石器から縄文の長い時間軸の中でユーラシア大陸の東端に南北に連なる列島に様々な集団が到達し、他に類を見ないユニークな遺伝的特徴を持った集団が形成されていったというシナリオを否定してはいないのです。」
縄文人のゲノム解析の結果(1)画像はこちらから
上の図で、尻労安部縄文とあります。「しっかりあべ」と読み、青森県下北半島にある遺跡です。そこで発掘された縄文時代人骨が、東ユーラシアの集団から分岐したことを示す一方、特定の集団と近似しないのは、広い地域の集団から受け継いでいるからだと篠田博士は説明します。
そして、「多変量解析という統計手法を使った人骨の分析によって『「弥生時代になって農耕技術と共に大陸から渡来人が日本列島に進出し、在来の縄文人と混血していくことで本土(本州・四国・九州)の集団が形成されたが、海を隔てている北海道と沖縄では混血が進まずに縄文人の子孫たちが残った』とする二重構造説が、その後の日本人のルーツの定説となっていきます。
この学説では縄文人の由来は南方にあるとされ、彼らが列島の基層集団となって、狩猟採集を中心とした縄文文化を築き、弥生時代に水田稲作の技術を持って新たに渡来した大陸系のグループ(縄文時代以前に分かれ、大陸で独自の農耕文化を生んだグループ)が主に北部九州から日本に入り、縄文時代人と交雑しながら最終的に『本土の現代日本人』となっていったという二重構造説のシナリオは、古人骨のDNA分析によっても、ある程度証明されています。
現代日本人のハプログループは弥生人以降に入ったものが大部分を占めていることも明らかになっており、これは二重構造説を支持します。しかし、二重構造説では日本列島の縄文人は均一であると考えていますが、沖縄から北海道に至る全国の縄文人骨のDNAから検出されるミトコンドリアDNAのハプログループを見ると、一様ではなく地域的な違いがあることが分かっています(図3)。」とも。
図3.北海道の縄文人の全ゲノム解析から導かれた縄文人の成立のモデル図
(画像は「日本人はどこから来たのか? ~MYCODEセミナー「ミトコンドリアDNAでたどる日本人のルーツ」2019年5月国立科学博物館篠田謙一館長 特別講義から)
「縄文人」に関しては、どうにも実像が掴みにくい印象がありました。
例えば、土偶。何のために創られたか、全くと言ってよいほど不明です。しかも、作風が時代や地域でかなり異なる。遮光器土偶に至っては、もはや宇宙人。次に土器。火焔式土器はやはり独特。これも突然現れ、その後消滅します。
「縄文人」とい特定的な人種を想定するのは、篠田館長が言うように、少し強引ではないかと考えます。
多様な人々があちこちから日本列島に到達して、日本列島内で混血して、縄文時代をそれぞれ地元の文化で暮らしてきた。そう考えると多様な文化や、大陸文化との近親性も説明できます。
そして弥生時代になって朝鮮半島のごく狭い地域の渡来系人々と混血して、弥生人が定着、その後の日本人の源となったと言えそうですが、如何でしょうか。
投稿者 sai-yu : 2022年01月26日 Tweet