2015年4月21日
2015年04月21日
再考「扇」~第7回 日本のおおらかな性文化を扱う吉野民俗学
前回http://web.joumon.jp.net/blog/2015/04/2889.html、ボノボや人類に特有の「正常位」について、その機能を構造的に解明しきました。かぎは「共感」にありました。正常位は「相手の表情が確認できること」「相手のことを正面から抱きしめること」などの特徴があります。正常位の役割は赤ちゃんの愛着形成に必要な「表情の認識」と「抱擁」と同じであり、パートナーへの「愛着」と「共感」を形成しているのかもしれません。
今回はいよいよシリーズ全体のまとめになります。
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あとがき
私が扇に関心をもった出来事がありました。私事ですが和装で結婚式をしました。記念撮影になり、渡された扇子を持ちカメラの前に立ちました。その時です。ベテランスタイリストの方が「持っている扇子の先を下に向けてはいけません。親指に力を込め扇子の先を持ちあげなさい。」と注意を受けました。「そんなことも知らないのか」という感情が見てとれて印象に残りました。
それから気にして幕末・明治の写真を見るようにすると、確かに男性が持つ扇子は腰のあたりに構え、親指に力を込め扇子を水平にしていました。美保神社での蒼柴垣神事に重用される「長形の扇」は神事の最中は両手で持ち、腰の前で突き立てます。これらすべては男根を表す隠喩だと解り、後で笑ってしまいました。
私の専門は美術ですので日本美術において「扇」は格段に高い重要性があると考えています。琳派の屏風では扇が画面に舞い、一つ一つの扇には趣向を凝らした内容が描かれています。日本美術において扇面は掛軸・絵巻物・屏風とならぶ絵画形式のひとつになります。扇は絵を描くべき絵画の場になります。「扇とは何か?」は美術にとって重要な問いだと思います。
今回の文章は性表現が多く疲れましたが、日本文化において重要な「扇」を調べるとヒトとボノボの正常位に辿りつくことになりました。この「見立ての起源」はヤシの木が生える南方に住む女性がセックスの最中に「ビロウをおちんちん」に見立て始めたのが始まりだと考えると、なんだか微笑ましくもあります。
この文章を書き始めた目的は尊敬する吉野先生の民俗学をもう一度、議論の俎上に上げ、微力ながら吉野先生の意志を引き継ぎたいという思いでした。現在でも吉野民俗学は性を扱うため取り上げられることは多くありません。柳田民俗学では性はタブーとされていました。吉野先生はそのことは知らずに性の重要性を着眼点に民俗学を更新(バージョンアップ)されました。吉野民俗学は、儒教仏教に染まる前の古代人に思いをめぐらせ確立します。
性を扱わない民俗学は儒教・仏教・一神教のモラルに惑わされ理屈っぽくなります。なかでも新約聖書では処女懐胎という見方があり、性を禁忌(タブー)にしてしまいます。どこまで性を蔑ろにすれば気が済むのか?あきれた発想をします。このことはフリードリッヒ・ニーチェが「アンチ・クリスト」において指摘をしています。
本来、明治以前の日本の農村ではおおらかな性があり、歌垣や夜這いの文化がありました。もちろん昔に戻ればよいわけではありませんが、大人が知っておくべき性文化だと思います。
吉野先生の著作は「扇」(1970)から始まり、「古代日本の女性天皇」(2005)で締めくくられます。最後の著作である「古代日本の女性天皇」の内容は現在も問題になっている皇統の問題を縄文時代の祭祀から遡及し日本における女帝の存在を明確に分析されています。率直に言って男系・男性でなければならない理由は日本にはありません。これは日中両国間の文化の違いです。女性天皇の存在は誇るべき日本の特質です。
吉野先生の著作は最後まで透徹した学究姿勢でした。儒教仏教に惑わされない明晰さ、陰陽五行読解の執念、古代人との同調による分析がありました。『吉野裕子全集』全十二巻(人文書院)は2007年に刊行開始されました。2008年に全集のすべてが刊行され、2008年4月18日に吉野先生は亡くなられました。
私は2006年に森の中で蛇と出会い“蛇信仰”に思い至りました。それから2008年に吉野先生の著作「蛇 原始日本の蛇信仰」を知り、すぐに購入して読みました。読了後、自分の温めたアイデアは間違いではないと確信し、吉野先生にお会いしたいと思いました。しかし残念ながら、検索すると数か月前にお亡くなりになったことを知りました。原始蛇信仰について温めたアイデアがあったのでお話を伺ってみたかったのですが叶いませんでした。
これから吉野民俗学に興味を持つ方々が増えることを願っています。吉野先生の学究人生はコチラをお読みください→在野研究のススメvol.04 : 吉野裕子
平成27年2月
白井忠俊
参考文献
「扇」吉野裕子全集1~12 人文書院
「海上の道」柳田国男全集 ちくま文庫
「チンパンジーの中の人」早木仁成
「Why is sex fun セックスはなぜ楽しいか」ジャレド・ダイアモンド著
「大地母神の時代」安田喜憲著
「暴力はどこからきたか」山極寿一
「ピグミーチンパンジー 未知の類人猿」以文社 黒田末寿
「人類進化再考 社会生成の考古学」以文社 黒田末寿
「古代秘教の本」学研
「共感の時代へ―動物行動学が教えてくれること」フランス・ドゥ・ヴァール
「夜這いの民俗学・夜這いの性愛論」ちくま学芸文庫 赤松啓介
「扇子 NHK美の壺」NHK出版
参考Website
「正常位の素晴らしさについて心理学的観点から語ってみた」
https://alstroemeriasm.wordpress.com/2014/06/17/
「共同体社会と人類婚姻史」http://bbs.jinruisi.net/blog/2013/06/1147.html
投稿者 tanog : 2015年04月21日 Tweet