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これからは東洋医学が注目されていく(その2)東洋医学の視座~こころと身体が一つであるという 「心身一如」 の整体観

シリーズ第2回は東洋医学の基礎(歴史と視座)を扱います。大阪経済大学の黒木賢一教授が執筆された2006年5月に掲載された大阪経大論集によい記事がありましたのでそこから引用してしばらくこのシリーズを展開していきます。

黒木氏は臨床心理学を追求し、ツイッターには以下のような遍歴を披露されています。「大学院で臨床心理士を目指す学生を教えている。「心理職人」を目指しているうちに,東洋医学の「気」,気功,太極拳に興味を持つようになる。また,四国遍路にはまり2巡目の歩きを行っている」と自称「心理職人」という面白い経歴を持たれています。

東洋医学は「全体的」西洋医学は「部分的」。
また西洋医学の最も特徴的な事として身体と心を別のものとして捉える「心身二元論」であり、対して東洋医学は身体が一つであるという 「心身一如」の考えが基本にあるとしています。さらに人間は自然の一部であり、また人間の体の中に自然があるという自然と身体は共存していると説き、その意味では自然を敵対視し、克服しようとして来た西洋人と、自然と共存し、自然に同化を試みた東洋人に根本的な差が生じていると言えます。
日本人は明治以降、西洋医学を正として全面的に取り込み、医師の育成、病院、医療の推進を行ってきています。
その結果がまさに心身がバラバラで心が失われ、肉体が破壊されていく。今こそ、医療を見直し、本当の意味での心身の健康を取り戻す必要があるのではないか。その方法が東洋医学の中にたくさんあるのではないかと思い、このシリーズを続けていきたいと思います。最初は黒木氏の論文の序章の紹介です。

1) 東洋医学の視座 

東洋医学とは, 広義の意味ではアジアを中心に発達した伝承医学のことである。 その中 には, 中国の中国医学, チベットのチベット医学, インドのアユルベーダー医学, イスラ ム圏のユナーニ医学などがある。 狭義の意味での東洋医学は中国の伝承医学のことをいう。 日本においては, 6世紀ごろに, 仏教伝来と同時期に中国の伝承医学も伝来した。 江戸時代, オランダ医学を 「蘭方」 と称したのに対して, 中国から伝来した医学は 「漢方」 と呼 ばれた。 この漢方は, 時代を経ることにより, 日本独特の医学として変化しながら成立し ていた。 しかし, 明治初頭に国家政策により, 西洋の近代医学を正規の医学としてとりいれたために, 日本漢方は一時, 医療の世界から姿を消すという歴史がある。 

1976年に漢方薬が健康保険適応されたことを契機に漢方を中心とした東洋医学が日本で は見直されるようになったのである。 東洋医学の根本は, 古代中国の思想である老荘思想や易経などがあり, その奥には, 気 と陰陽五行説に基づいている。 医学大系としては, 紀元200年に著された三大古典がある。 身体の生理観, 疾病観, 診断法, 治療論が記された 『黄帝内経 (素門・霊枢)』, 三六五種 類の薬草の効能が記された 『神農本草経』, 様々な疾病と薬の応用が記された 『傷寒雑病 論』 があり, それらには東洋の自然観と生命観が貫かれている。 これらの三大古典の充実 ぶりはすばらしく, 紀元前1700年頃の殷王朝時代から約2000年間の年月をかけて次第に中 国独自の医学大系が整えられていったことが伺える。 この三大古典を基礎に現代の東洋医 学は時代の変遷とともに発展してきた。 世界に類を見ない緻密な医学大系として, 悠久の 時を超えた知恵と知識の伝承がそこにはある。 

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では, 近代の西洋医学と伝統的な東洋医学では, どのような違いがあるのか両者を比較 することで, 東洋医学の特徴を明らかにしよう。 水島 (1995) は表1を示し, 両者の比較 を行っている。 筆者なりに東洋医学と西洋医学の差違を整理してみよう。 両者の視 点の違いは, 前者は 「全体的」 であり後者は 「部分的」 である。 東洋医学では, 自然の中 に人が存在し, 人の中に自然が存在しているという考え方があり, 自然と共存している身 体を問題にしている。 それは陰陽論と五行論を基本にした考えの上にたっている。 また, こころと身体が一つであるという 「心身一如」 の整体観がある。 西洋医学は, 心身二元論 の考え方に立ち, あくまでも身体と心は二分化され, 部分に注目をする。 この両者の基本 的な違いは大きい。 

その基本的な視点の違いが, 身体に対する見方に影響しており, 東洋医学では, 臓腑に 異常があったとしても, 身体に流れる 「気血水」 という物質がどのように働き, 影響を与 えているかを問題にしている。 また, こころの有り様も, 気血水で結ばれた身体の一部の 現れとして切り離すことはしない。 西洋医学では, 臓器の器質的な異常を病気と見なし 「病理学」 の視点から捉えている。 このような差違が治療の目的に影響を与え, 西洋医学 では 「疾病の原因」 を探求するのに対して, 東洋医学では 「自然治癒力」 に力点をおいて いる。 診断に関しても, 西洋医学では, 例えば, 胃潰瘍といった固定された診断名がつく が, 東洋医学では, 胃潰瘍の病因と状態から 「証」 を把握して治療を行う。 

寺澤 (2002) によれば, 「証とは患者が現時点で現している症状を気血水, 陰陽・虚実・ 寒熱・表裏, 五臓, 六病位などの基本概念をとおして認識し, さらに病態の特異性を示す 症候をとらえた結果を総合して得られる診断であり, 治療の指示である」 と定義し, 証は 診断の物差しであると述べている。 東洋医学の臨床の場では, 西洋医学の治療を受けて, 納得しなかったクライエントの受 診が多いといわれている。 それは, 不定愁訴など, 検査をしても数値上ではどこも問題が ないと言われる。 しかし, クライエントは自覚症状があり困っているのである。 また東洋 医学では, 後に述べるが, 心理面を重視しているのが特徴である。 それは心身一如の視点 が原点にあり, 「病は気から」 という言葉からも分かるように, 気 (エネルギー, 物質, 情報) の有り様を重視している。 

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