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ロシアの歴史に“民族の本源性”を探る~プロローグ

欧米発の近代思想が世界に浸透し、現在の市場経済(グローバル経済)が世界標準であるかのように思っている人も多いでしょう。

しかしロシアでは、プーチン大統領が、国内のユダヤ金融勢力を駆逐し、エネルギーのドル建て決済から離脱、アジア各国との関係を重視するなど、脱グローバルの動きが静かに、しかし確実に起こっています。

 考えてみれば、近代思想の出所は世界の片隅のヨーロッパ、その一部のオランダ、イギリス、スペイン、そしてフランスのあたりからです。キリスト教国家が世界の版図を広げてきましたが、わずか数百年で世界の民族の歴史や文化を根こそぎ塗り替えることなどできるはずはありません。

 昨今の現象は、列強諸国の植民地政策とともに広まった近代思想が、表層的には価値観念でしかなく、世界各地の古くからある民族性や本源性が、近代市場の行き詰まりとともに復活してきたと捉えることもできそうです。そして、ロシアはその象徴的存在なのではないでしょうか。

 ロシアは(ソ連時代を含め)拡大の野心に満ちた得体の知れない国、というイメージがつきまといます。しかし、ソ連崩壊後の経済危機に際しても暴動を起こすことなく、食糧の自給体制で乗り切った共同体性は特筆すべきでしょう。またロシア正教、イスラム教、ユダヤ教、仏教、そして少数民族のシャーマニズムなど、多数の宗教を包摂しながらその根底に精霊信仰を失わないロシア社会には、古代からの民族意識を濃厚に留めている可能性を感じます

 

こけしを思わせる「マトリョーシカ」 [1]

こけしを思わせる「マトリョーシカ」

それでは、ロシアの大衆意識を辿りながら、その本源性と可能性を探ってみたいと思います。
 

 ●「ミール」はロシアの共同性を象徴する言葉

ロシア語で世界、平和、村落共同体を示す言葉です。宇宙ステーションもミール、プーチンが秋田県知事に贈った猫の名前もミールと、ロシア人が非常に好んで使います。民衆の意識に深く刻印されている言葉=世界観であり、争いのない共同体の生活が平和(ミール)であり、その共同体が広がったのが世界(ミール)というわけです。好戦的?なロシアのイメージとは異なる、ロシア人の本源性がうかがえます。

 ●キリスト教信仰の根底にある「熊崇拝」

ロシアの民は圧倒的な自然を前にして、あらゆる自然現象の中に神を見出す精霊信仰を持っていました。とりわけロシアの深い森は、迷い込んだが最後二度と出られぬ魔界として恐れられていたと同時に、茸や蜂蜜など様々な恩恵をもたらす存在でした。そして、その森の主たる熊に対しては特別の感情・畏敬の念を抱いてきたといわれています。

キリスト教が伝来したときも、人々はキリスト教を形の上では受け入れながら実際は旧来の信仰を捨てず、折に触て異教的な祭礼を行っていたといわれています。ロシア人の心の奥底には古い自然観が生き残り、キリスト教信仰と併存してきたのが事実のようです。

ロシアの森 中にいるのは熊? [2]

ロシアの森 中にいるのは熊?

 ●脱市場を実現~自給生産の「ダーチャ」

平日は都市で働き、週末は郊外で農作業に汗を流す。ロシアでは「ダーチャ」という菜園付きのセカンドハウスを多くの国民が持ち、食料の大半を自給しています。その昔、レーニンが地主階級から没収した土地の再分配を農民に約束し、自留地と呼ばれる土地が個人に与えられました。慢性的な食料不足という問題を抱えていたロシアでは、土地はあっても食料を買う外貨がない。そこで都市住民を兼業農家にしたというのが理由のようです。1990年代前半、ソ連崩壊後の混乱でモノ不足に陥ったロシアで餓死者が出なかったのは、ダーチャがあったからだといわれています。

市場経済に組み込まれず自給生産を実現している「ダーチャ」は、ロシア人のたくましさをみせるとともに、脱市場の可能性を感じさせてくれます。

ロシアの食を支えるダーチャ [3]

ロシアの食を支えるダーチャ

 ●国が変わっても共同体は変わらない

ロシアの社会主義化は、伝統的なミール(農村共同体)の存在によるところが大だったといわれています。また、ソ連崩壊後の社会秩序維持も、民衆の共同体意識があればこそでした。中世のロシア国家成立から、皇帝専制国家、そして社会主義国家へと変転する中で、共同体が解体されず機能してきたロシアは、世界でも稀な存在かもしれません。

前シリーズで追求した琉球王国の成立-近隣強国の圧力に適応するため、島々の村落共同体を列島国家として統合した-に近いものを感じます。

 ロシアの大衆意識を大まかに辿ってきましたが、専制・強権・・というロシア(ソ連)のイメージとはまったく異なる大衆意識が見えてきます。そして、彼らの意識を形成してきた要因として、次のような仮説が浮かび上がってきます。

 ○約6000年前、コーカサス発の略奪闘争を逃れて北に向かった民族がロシア人の源流。

○以来、ロシア人は、「森の民」としての自然観、共同体意識を色濃く残してきた。

○キリスト教も形の上では受け入れたが、民衆の本源的な世界観は変わることがなかった。

 略奪闘争に飲み込まれることなく、「森の民」として共同体を営みながら、しかし一方で南からの列強圧力に適応するため、共同体を統合した国家組織を形成してきたのがロシアという国の形なのかもしれません。

従って、近代思想のにせもの性が暴かれると同時に、脱グローバル化の潮流が一気に現れてきた。というのが現在の状況なのではないでしょうか。

 市場経済の成長を第一とする国際金融勢力は、世界を資本支配の下におこうと暗躍しています。その結果が、地球環境の破壊であり、経済破綻による混乱であり、紛争の頻発です。これら人類に対する犯罪的行為が明らかになるにつれ、脱グローバルの先に、これからの社会をどう統合していくか?という期待が、日本を始め、各国で高まっています。

 その先陣を切っているのがロシア。とすれば、その歴史を辿って彼らの本源性を探り、次代の社会を形成していくための答えが見つかるかも知れません。

 しかし、ロシアが国家として歴史に登場するのは9世紀半ば以降です。私権社会との関わりが薄かったが故に、ロシアの古代史は未明領域が多く残されています。本シリーズでは、その未解明の世界に切り込み、答えに迫っていきたいと思います。

 [シリーズテーマ]

第1回:ロシアの本源性の秘密は森にあり

第2回:横に長い地理的特性がもたらした必然

第3回:国家形成前夜のロシアの在り様

第4回:宗教・言語から何が見えるか

第5回:ロシア建国後も続いた共同体の足跡

 縄文ブログならではの、大胆な仮説と論証にご期待ください!

 

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