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シリーズ「日本人の“考える力”を考える」第5回(後)~神話を国家起源に持つ日本の可能性と限界性

Posted By staff On 2010年9月18日 @ 4:59 PM In 弥生ー律令時代の集団統合 | 3 Comments

●漢帝国に伍しようと「易姓革命」を志向した天武天皇が「記紀編纂の勅」を下した。
孫族と国神族は融和し大きな部族連合を作り出した日本ですが、朝鮮半島の動乱を受けて、百済系、新羅・高句麗系の落ち武者たちの間で、百済復興を巡る路線対立が先鋭化し、磐井の乱、壬申の乱を契機として、事態は抜き差しならない、緊張状態へと移行していきます。しかも、朝鮮半島の動乱の原因をなした中国では漢が大帝国として確立、圧倒的な脅威として存在するようになります。そんな中、律令制度の導入と、歴史書の編纂により、統一国家を作り出し、中国に伍する力をつけたいと願ったのが天武天皇でした。
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写真は天武天皇


そのような権力志向の強かった天武ですから中国流の「易姓革命」に傾斜します。「易姓革命」とは「天は己に成り代わって王朝に地上を治めさせるが、徳を失った現在の王朝に天が見切りをつけたとき、革命(天命を革(あらた)める)が起きる」とする革命思想であり、権力闘争を正当化する論理です。
この「易姓革命」という観念は一方では、権力が腐敗すれば、権力交替がおきる、という権力の腐敗を防止する役割を果たしましたが、他方では、際限のない武力闘争の激化を正当化するという役割も果たしたのです。つまり「権力者に都合よく拡大解釈され、暴走する可能性の大きな」抽象観念であった、といえます。
●藤原不比等は天皇を「権力なき統合中心」として神棚に奉った。
しかし、天武天皇の勅を受けて、歴史編纂に直接携わったと思われる藤原不比等は、この記紀を天武の意図とはまったく違うものにしてしまいます。その最大の特徴は「天皇を‘権力なき統合中心’として神棚に奉った」というところにあります。その記紀神話の構造を心理学者の河合隼雄は「中空構造」として指摘しました。
>河合が注目したことは、『古事記』の冒頭に登場する三神タカミムスビ・アメノミナカヌシ・カミムスビのアメノミナカヌシと、イザナギとイザナミが生んだ三貴神アマテラス・ツクヨミ・スサノオのうちのツクヨミとが、神話の中でほとんど無為の神としてしか扱われていないということである。
>アメノミナカヌシもツクヨミも中心にいるはずの神である。それが無為の存在になっている。これはいったい何だろう、おかしいぞという疑問だった。
>もうひとつ、典型的な例がある。天孫ニニギノミコトとコノハナサクヤヒメの間に生まれた三神は、海幸彦ことホデリノミコト(火照命)、ホスセリノミコト(火須勢理命)、山幸彦ことホオリノミコト(火遠命)であるのだが、兄と弟の海幸・山幸のことはよく知られているのに、真ん中のホスセリの話は神話にはほとんど語られない。
>このことから河合は日本神話は中空構造をもって成立しているのではないかと推理した。簡単にいえば“中ヌキ”である。

(以上、松岡正剛の千夜千冊 http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0141.html [1] より)
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写真はなにもしないカミサマ「ツクヨミ」
ここには、2者間が対立している際に、本来、どちらかについてしまう第三者が敢えて何もせず、そのことによって、逆に2対1となるような、決定的な対立を引き起こさない、3すくみの法則が語られています。そしてこのような3すくみを敢えて作り出すことで外圧が高い状況下にあっても「和睦的連合(談合)」が実現されてきたのです。そして、そのような「和睦的連合(談合)の智恵」を駆使して、各豪族が血縁によって繋がり、この国の統一の基盤をつくり出してきたこと、それを重視することの重要性を記紀神話を通じて不比等は語ったのと思われます。
●中空構造が権力の暴走を抑え、平安の時代が花開いた
実際、その後の親百済VS反百済の闘争は、親百済系の勝利に終わったかのように見えますが、しかし、同時に親百済政権が百済奪回に固執し、国内を混乱させたかというと、そうではありません。むしろ、親百済政権が次第に国内定着にこそ尽力し、内向きに転換したことによって、長い平安の安定期を迎えることになったのです。
勿論、「中空構造」は「責任が曖昧である」とか「まっとうな政策論争が生まれない」といった問題の温床となるといった問題性もあります。しかしながら、神話によって個の国の和睦的連合の基盤とされた豪族相互の「血の繋がりという実態」が、「易姓革命」という抽象観念の暴走を防いだともいえます。かつて記紀神話は明治期の「富国強兵」や「官僚制度」を鼓舞するために使われましたが、私たちは記紀神話から「日本的社会統合のより基層的な智恵」を学び直していく必要があります。


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